みちのそらじ
迷い込んだ森の中で、きのこの輪っかをみつけたんです。世にも珍しい、ムラサキテングタケのフェアリーリング。
気をつけて。 フェアリーリングの中に入ったら、 夢の中に永遠に閉じ込められるんですって。
だけど、 まるくならんだきのこたちがあんまり楽しげなものだから、私ときたらつい、
輪の中に足を踏み入れてしまったのです。
その輪の中には、ありとあらゆる生き物が住んでいました。
鳥も獣も虫たちも、木や草やたくさんの花々も、きのこもおさかなも、いつか読んだお話に出てきた不思議な生き物も。
まんなかには全てのいのちを抱え込む、 大きなたまごもありました。
なんて安心、 なんてうれしい、 なんて気持ちの良い場所。
そこでは、私もありとあらゆる生き物のうちのひとつでしか
ないのでした。 私はその輪の中で、 気ままに踊り、眠り、歌い、
どれだけの時間をすごしたのでしょうか。 たまごにもたれてまどろみからふとめざめたとき、 思ったのです。 「おなかすいた!」
こうしてはいられません。 はやく家に帰って、 なにかおいしいものを食べなくちゃ。 その一心でひたすらはしったら、いつのまにか森をぬけて、よく知った道に出ていました。
いつだって、道の途中で迷っては、行き着く先を見失う。
それでも道はつづくから、ひとやすみしたらまた、あるいてゆきましょう。
〜道の空路=物事の途中〜
「みちのそらじ」に寄せて 高橋理子